おごめご様
もしかしたらスレ値かもしれんが、まとめサイトには民間信仰系の話もあったし、まあ許してくれ
あとあんま怖くない
1
おごめご様というのがいる。
と、従妹から聞いた。
なんでも小学校に出るらしい。
その小学校には俺も通ったんだが、旧館と新館に分かれている。
その二つの棟をつなぐ渡り廊下の側、植え込みの陰に隠れるように、ぽこんとした岩が置いてあった。
一抱えもある、黒っぽくてまるっこい、何の変哲もない岩だ。
俺がいたころは墓石だという噂があって、誰も触ろうとしなかった。
六年生の誰それが肝試しでその岩を蹴っ飛ばしたが交通事故にあって目が見えなくなったとか、
昔二階の廊下(二階にも渡り廊下があった)から落ちたやつがこの石で頭を割ったとか、
岩の下には子供が埋まってるとか、まことしやかに囁かれていたものだった。
どうやらその岩が新たな変化を遂げたらしい。
2
このGWにお茶工場をしている祖母を手伝いに田舎に帰ったときのことだ。
従妹が目を輝かせて内緒話をするように俺に話しかけてきた。
従妹「おごめご様って、兄ちゃん知ってる?」
俺「いや知らん。なに?」
すると従妹はあからさまに落胆した顔をした。
良く聞いてみると、
『学校におごめご様が出る。クラスでおごめご様はいい神様か悪い神様かで揉めた。
卒業生の兄ちゃんなら知ってるだろうと思った』
ということらしい。
おごめご様なんて知らなかったので詳しく聞いてみると、どうやら俺たちが
墓石だの何だのと言っていた、あの岩のことらしい。
従妹「おごめご様はね、いい神様なんだよ。おごめご様にちゃんとお願いすると
何でも叶えてくれるんだって。yちゃんとtちゃんが試したってさ」
従妹が一生懸命言う。ふーん、あのおっそろしかった岩が、今じゃ子供らの神様かー…
と何となく懐かしいような気分になった。
俺「へー。…ちゃんとってなに?」
従妹「あのね、おごめご様の前でね、呪文をとなえてね、おごめご様の頭と足を撫でながら
お願いを言うの。それでまた呪文を言って、叶ったら自分の髪の毛をおごめご様の後ろに一本おくんだよ」
またずいぶんオカルティックな。呪文というのはまず始めに「カマカマカマ」、
おしまいに「コモコモコモ」だという。頭は岩の天辺、足というのは岩の下の方。
こりゃ絶対高学年のオカルトマニアか誰かが作ったな…と思いながら、ふと気になったことを聞いてみた。
俺「ゆき(従妹・仮名)はおごめご様はいい神様だと思ってんの?」
従妹「当たり前じゃん。お願い叶えてくれるんだよ」
俺「じゃあさ、悪い神様だって言う子たちは、なんで悪い神様だと思ったんだろね」
すると従妹は思いっきり顔をしかめた。
従妹「…おごめご様がお化けだって言う子たちがいるんだよ。おごめご様が出たって言うの」
俺「…どんなの?」
従妹「渡り廊下の隅っこにね、白い子供が仰向けに寝てるんだって。大の字に広がってて、
頭だけこっちを向いてて、それで『めごめご、おごおご』って言うんだって。だからおごめご様なんだって」
従妹がへったくそな絵を書いてくれたんだが、それがまた何とも言えない怖さだった。
おごめご様は頭をこちら、足を反対側に向けて寝転がっている。その頭がこう、くっと立てられているのだ。
首だけでブリッジしたみたいな感じ。
従妹「最近おごめご様が出るからって、下の廊下通んない子もいるんだよ」
どうやらこのおごめご様はいい神様にしろ悪い神様にしろ、相当学校ではやっているようだった。
その場は祖母からお呼びがかかってお開きになったのだが、面白くなったのはその後だ。
結局学生の気楽さで、平日も自主休講して二日から六日までお茶の手伝いをし、明日は帰るかと言う五日の晩だった。
従妹(家はすぐ近くだがこの時は泊まってった)はもう寝ており、ばあちゃんと父母、俺で、
夕食後にのんびり酒を飲みながらだべっていた。
大方はお茶の話で、今年は三月から冷えた日が続いたから今一葉っぱの出が悪かったとか、
この辺ももうお茶を継ぐ人がおらんで大変だとかそんな愚痴みたいな話をしていたんだが、
その内にふっと思い出しておごめご様の話をしてみた。
俺「そういやさー、ゆきの学校でさー、なんか変な神様がはやってんだって。おごめご様とかいってさあ」
するとばあちゃんがぎょっとした顔をした。
俺「?」
祖母「それ、本当か? おごめご?」
俺「らしいよ。よく分かんないけど、願いを叶えてくれるやらお化けやら諸説出てるって」
祖母「………はあー、まさかゆきはさわっとらんだろね」
ばあちゃんは何だか本当に驚いたような顔をしている。父母がきょとんとしているので、俺は二人におごめご様の説明をした。
父は膝を叩いて言った。
父「あー、知ってるぞそれ。俺のときは何だったかなあ。
なんだか新館を建てる時に山を削ったら山の中にあの石があって、邪魔だからって掘ってみたんだな。
そしたら下から壷に消し炭だか骨だか入ったのが出てきて、こりゃなんだか曰くのあるもんだろうっつって
お祓いして岩をあそこに動かしたとかなんか、そんなんじゃなかったかな」
初耳だった。墓石というのも満更ガセではなかったらしい。
聞けば俺たちが噂していた二階から落っこちたやつは親父の四つ上の男子だと言う。
窓の側でふざけていて、身を乗り出しすぎて落ちたらしい。
確かにあの岩に頭をぶつけて危なかったが、死んではいないという。
父「ばあさんも知ってるのか、アレ。子供だけの噂だと思ってたわ」
するとばあちゃんは呆れた顔をした。
祖母「知ってるも何もあんた、ありゃSんとこのモンだい。S、ほら、じーさんのハトコが跡とってからすっかり潰れたろ。
山ももう持ってられんくなったんだな。ちょうど学校を広げるっつうから県に売ったんだ。近所でもずいぶん止めたけえが
聞きゃあしない。ほいで山潰して学校にして、すぐSの家屋敷も焼けちまったろうが」
5
Sというのはこの辺に多い名字で、今話題になってるのはウチの裏手の方、山際のS家だ。
小さいころからあんまりいい噂は聞かない家だった。焼けたという割には立派な家に住んでいるが。
祖母「それでまー、うつす時も大変だったよう。わざわざヨソから拝む人連れてきてさ。だから触るなっていったのになあ」
俺「え、その山にあったのって、なんかまずいもんだったの?」
あまりにばあちゃんが嫌そうに言うので、思わず尋ねると、ばあちゃんは顔をしかめて言った。
祖母「あれはさ、Sのとこで持ってたモンだで、何でも子供の神様でさあ、よっく祟るんだなあ。母ちゃんに良く言われたよう、
Sの山には入んなって」
俺「あれってオゴメゴって言ってたの? 昔から」
祖母「おごめごったら男の子と女の子のことだな。ウチらはなんて呼んでたかなあ、やっぱりオゴ様とかオゴメ様とか言ってたな。
Sと仲いい家ってなかなかないだろ、祟られるからだろて」
ここから先は学校の増築を推進した地主の家の悪口やら山の値段が下がった話やらになった。
以上で大体話はおしまい。
元々はSの家の神様だったのが学校の中に移って、しかも学校の怪談になっているのが俺には面白く思えた。
それにしても、親父のころも俺のころもおごめご様なんて言わなかったのに、なんで今になってそんな名前が出てきたんだろうか。
神様の方は誰かの創作だとして、お化けの方のおごめご様って、誰か見た人がいるんだろうか。
つうかおごめご様って何よ?
謎は尽きないがとりあえず終わり。
読んでくれた人(いるのか?w)ありがとう。
対向車の老人
山道は深く、奥に入れば入るほど道は狭くなっていきます
\車
 ̄\
こんな感じで車が走ってると思ってください
するとこんな山道なのに上のほうから車が来るじゃありませんか
こういう山道は対向車用にところどころ道にでっぱりが出ているので、
向こうの車がそこで待機するとばかり思っていたのに
対向車線の車はでっぱりで止まるどころかこっちに向かってきます
運転者を見ると初老の男性でした。
私達の車がでっぱりで待機しようと思ったら、後ろ数百メートルは下がらないといけません
どうしようかと思っているうちに車は私達の右隣を通過しようとします
「こいつバカか!」
と思っているうちに
初老の男性を乗せた車はバランスを崩しそのまま山の下へ転がっていきました。
圏外でしたので電話もできず、とりあえず山を降りて公衆電話を探して
「山の中で車が落ちるのを見ました」とだけ伝えました。
とても恐ろしかったです。
あの車が幽霊でありますように。
だるまさんが転んだ
まさんがころんだ」と口にしてはいけません。頭の中で考
えることも絶対にヤバイです。何故なら、前かがみで目を閉じて頭
を洗っている姿が「だるまさんがころんだ」で遊んでいるように見える
のに併せて、水場は霊を呼び易く、家の中でもキッチンやおふ
ろ場などは霊があつまる格好の場となるからです。さて、洗髪中に
いち度ならず、頭の中で何度か「だるまさんが
ころんだ」を反芻してしまったあなたは気付くでしょう。青じ
ろい顔の女が、背後から肩越しにあなたの横顔を血ば
しった目でじっとみつめていることに.....。さて、あな
たは今からお風呂タイムですか? 何度も言いますが、
いけませんよ、「だるまさんがころんだ」だけは。
あなたはこのメールを最後まで読みましたか?
携帯で読んだなら、この話をすぐに忘れましょう。
しかし、PCで読んだなら。すぐに隠された言葉に気がつくでしょう。
もし、このメールに隠されたもうひとつの意味を知ってしまったなら
このメールを4人におくりなさい。
もう、あなたの後ろにもいるのかもしれませんがね。。
俺も見たから大丈夫
両サイド基地に囲まれた道路走ってて、中央分離帯のヤシの木の側で
ヘルメット被った高校生らしき制服着た男の子が何か探してる様な
そぶりで立ってた。
なんであんな時間に?周りにはバイクなんて止まってなかったのに…
そこは、バイクの死亡事故がよく起きるとこなんやけど、今思うとたぶん、そいつは…
その一緒にいた友達はよく見るやつで、「俺も見たから大丈夫だって」て、どういう意味で言ったのか。
田舎 中編(師匠シリーズ)
っこりと出現したことによる。
その休みに、随分久しかった母方の田舎への帰省旅行を思いついたのだが、それが
どういうわけか師匠、CoCoさん、京介さんという3人の先輩を引き連れての道ゆきと
なってしまった。
楽しみではあったが、そこはかとない不安がどんよりと道の先にあるのを俺は見て見
ぬ振りをしていたのだった。
駅まで迎えに来てくれた伯父の車は7人乗りだったが、助手席に伯父の家で飼って
いる柴犬が丸まって寝ていたので京介さんとCoCoさん、俺と師匠という並びでそれぞ
れ中部座席、後部座席に収まっていた。
俺としては、その柴犬がまだ生きていたことにまず驚いた。
耳の形に見覚えのある特徴があったので、その子供かと思ったのだが「リュウ」本人
なのだという。20歳は確実に超えているはずだ。伯父にリュウの歳を聞くと、「忘
れた」と言って笑うだけだった。
「こいつはドライブが好きでなあ、昔ゃよう連れてったもんじゃけんど、最近は全
然出たがらんなっちょったがよ。今日は珍しい」
京介さんが頷きながら手を伸ばし、前の座席で寝そべっているリュウのお尻のあた
りを撫でる。リュウはちらっとだけ視線を向けて、また静かに目を閉じた。
車は快調に国道をとばしていた。
山間の道をひたすらに東へ進む。右手に川が現れて、ゴツゴツした巨大な岩が視界
に入ってはすぐに後方へ飛び去っていった。
何もないところだろう。
そういう伯父の言葉には変に飾ったところも、卑屈なところもなく、気持ちが良
かった。
CoCoさんが土地のことなどあれこれを聞き、京介さんもいつになく口が滑らかだった。
伯父が言った冗談に師匠がやたらウケて笑い声をあげ、その余韻で楽しそうに隣の
俺の肩を叩きながら顔を寄せて、表情とまったく違う冷めた調子で「ところで」と
言った。
「僕が今見ているものを、伝えてもいいか」
俺にしか聞こえないくらいの小さな囁き声に、いきなり冷水をかけられたような気
分になった。
日差しの強かったはずの窓の外が急に暗くなり、国道のすぐ横を流れている川は闇
に消えるように水面も見えなくなった。
そしてあたりから音が消え、車のフロントガラスの向こうには黒い霧が渦を巻いて
いる。
やがて川沿いのガードレールのあたりに、凍りついたような青白い人の顔がいくつも
並びはじめた。
暗くて首から下は見えない。顔だけがのっぺりと浮かび上がっている。男の顔もあ
れば女の顔もある。それも、大人が道路ぶちに立っているような高さのものもあれ
ば、その半分の高さのもの、はるか見上げるような位置にあるもの、地面に落ちて
いるもの、様々な顔が、しかしどれも無表情でこちらを見ているのだった。
そして無表情のまま、その顔たちはそれぞれ口を微かに開いている。
音もなく車の窓ガラス越しに視界は走り、手を伸ばせば届きそうな距離に、暗闇に
浮かぶ顔がまるで上下にうねる様な連続体となって見えた。それぞれの口の形は、
連続することによっていくつかの単語を脳裏に強制的に想起させようとしていた。
「なにを吹き込んでるんだ」
京介さんのその声に、ふいに我に返った。
世界に、音が戻ってきた。暗かった視界も一瞬のうちに霧が晴れたように元に戻り、
アスファルトの照り返しが目に飛び込んでくる。
師匠がすぅっ、と近づけていた顔を遠ざける。
「別に、なにも」
京介さんがこちらを睨む。
「あと30分くらいで着くきに」
伯父が能天気な声でそう言った。
京介さんが前に向き直ると、師匠はまた顔を寄せてきて「怖いな、アイツ」と言う。
俺はさっきの体験を反芻して、どうやら「師匠が見ているもの」の説明を聞かされ
ているうちに、まるで白昼夢のようにリアルな再構築を脳内で行ってしまったと結論
づける。もちろん、催眠術をかじっているという師匠のイタズラには違いない。
その師匠が「僕の見ている世界はどうだった」と聞いてくる。
「あの顔はなんですか」と囁き返す。あの幻からは”拒絶”という確かな悪意が感
じられた。ところが師匠は、それをお化けとも悪霊とも呼ばなかった。
「神様だよ」
塞の神。馴染み深い言葉でいえば道祖神。
そんな言葉が耳元に流れてくる。
「男の顔も、女の顔もあっただろう。双体道祖神といって、それほど珍しくもない
男女2対の道の神様だ。辻や道の端にあり旅人の安全を祈願すると同時に、村や
集落といった共同体への異物の侵入を防ぐ役割を果たしている。たぶんこの道路
沿いのどこかに石に彫られたものがあったはずだ」
俺の問いに師匠は可笑しそうに囁いた。
「疫病とか悪霊とか、ソトからもたらされる害悪の源。鬼はソト、福はウチってね。
幸いをもたらすものは歓迎し、災いをもたらすものは拒絶する。道祖神はその線
引きをする、果断な性格の神様だね」
もちろんウチにいる者にとっては、何も気にする必要のない、無害な神様さ。
師匠はそう言って嬉しそうに続ける。
「僕くらい、いろんなビョーキを持ってソトからやってくる人間は別だけど」
ビョーキ。
ここではなんの隠語なのか、すごく気になるところだったが師匠は京介さんの視線
を感じたらしく、また自分の座り位置に戻っていった。
車は国道から離れ、村道だか県道だかの山道へと入っていった。
窓の外いっぱいに広がる緑の木々を視界の端に捕らえながら、俺の頭の中には『僕
の見ている世界』という単語がへばりつく様に離れないでいた。
師匠はいつも、あんな底冷えのするような悪意の中を生きているのだろうか。
伯父がまたなにか冗談を言ってCoCoさんが笑い声をあげたとき、師匠がふいに顔を
寄せ、囁いた。
「あんなに強いのは珍しい。これも土地柄かな」
車が、ようやく止まった。
思ったより早く着いた。道がよくなったのだろうか。連れてこられたことしかない
自分にはよくわからなかった。
「さあ降りとうせ」という伯父の声に、俺たちは外に出る。
見渡す限りの山の中だ。目を上げると、谷を隔てた山向こうの峰はなお高い。
そして懐かしい伯父の家が、ささやかな石垣の中の広い敷地に、昔のままで立って
いた。
それは子供のころは、「おばあちゃんの家」だった。
高校1年生の時に祖母が亡くなるまでは。その時の滞在は、葬式のために慌しく過
ぎてしまって、あまり印象が無い。
「ヘェヘェ」と疲れたような声を出して、リュウが足元を通り過ぎようとした。
ガシッと捕まえて、顔を両手でグリグリと揉む。
「こらおまえ、葬式ン時もいたか?」
されていることに全く関心が無い様子で、何も言わずにされるがままになっている。
「あらあらあら」
という甲高い声とともに、家の玄関から布巾で手を拭きながら伯母が出てきた。
その後は、久しぶりに会った親戚の子どもに対するごく一般的なやりとりが続き、
連れの仲間たちの紹介を終えて、ようやく俺は伯父の家の畳の上に尻を落ち着けた。
「みんなお昼は食べたが?」という伯母の言葉に頷くと、「じゃあ晩御飯はご馳走
にしちゃおき、体でも動かしてきぃ」と言われた。
それに適当に返事をし、あてがわれた部屋に荷物を置くと、とりあえず大の字にな
って、車内でずっと曲げっぱなしだった足を思う存分伸ばす。
さすがに田舎の家は広い。記憶の中ではもっと広かった。
2階建てのその家は、大昔に民宿をしていたというだけあって、部屋の数も多い。俺
たち4人全員に一部屋ずつあてがっても十分足りたのだろうが、男2女2というこ
とでふた部屋を間借りすることにした。
「広れェー」と言いながら師匠と二人でゴロゴロ転がったあとで、廊下を隔てた女
部屋を覗いた。
り広いか」などという師匠の声を背中で受け流していると、いきなり中から現れた
京介さんに「死ね」と言われながらドツかれた。
すごすごと部屋に戻ると玄関の方から若い男の声が聞こえた。
出て行くと、近所に住む親戚のユキオだった。
顔を見ると懐かしさがこみ上げてくる。子供のころは夏休みにこの家へやってくる
たびに遊んだものだ。どうしてる、と聞くと「役場で、しがない公務員じゃ」と、
はにかんだように笑う。そういえばたしか俺より2つ歳上だった。
「じゃ、今は昼休みじゃき、また晩にでも寄るわ」
ユキオはそう言って家にも上がらずにスクーターにまたがった。
どうやら仕事に戻った伯父が、道ですれ違いざまに俺が来てることを話したらしい。
時計を見ると、15時をだいぶ回っている。ずいぶんと大らかな昼休みだ。
「さあ、これからどうしましょうか」
4人で集まって、何をするか話し合った。
じっとしていると背中に汗が浮いてくる。男部屋は窓を大きく開け放ち、クーラー
などつけていない。「らしき」ものはあるが、スイッチを押しても反応はなかった。
「泳ぎに行きましょう」
という俺の意見に、全員が賛成した。
旅行に発つ前にあらかじめ、水の綺麗な川があるから泳げるような準備をしておいて
くださいと伝えてあったので、一も二もない。
少し山を下るので、伯父の家の車を借りた。
向かう先に着替える場所がないので、部屋で水着に着替え、服を羽織って出かけるこ
とにした。
師匠が来た時とは別の白いバンのハンドルを握り、他の3人が乗り込む。
「ここに止めてください」
川の近くには車を止められそうなところがない。いつもこの家の敷地の端を借りてと
めさせてもらっていた。
車を降りた。
暑い。
蒸すわけではなかったが、とにかく日差しが強かった。サンダルに履き替えた足が
気持ちいい。
舗装もされていない田舎道を、「次暑いって言ったヤツ罰金」などと言い合いながら
歩いていると、それなりに仲間らしく見えるのだから不思議だ。
つい数時間前に、「どうしてコイツがいるのか」と師匠と京介さん、ともに喧嘩腰だ
ったのを忘れそうになる。
わりとねちっこい師匠に対して、さっぱりしている京介さんの大人の対応が奏功して
いるように思えた。
見通しのいい四つ辻に差し掛かったとき、ふいに俺の前を歩いていた京介さんが「ア
ツッ」と言ってしゃがみこんだ。
師匠が嬉しそうに「今暑いって言った? 暑いって言った?」と言いながら振り返る。
「言ってない」
京介さんはすぐ立ち上がり、右足を気にしながら、なんでもないと手を振ってみせる。
CoCoさんがどうしたのと聞き、京介さんは歩き始めながら「何か踏んだかも」と答え
る。
そんなやりとりのあと、数分とかからずに川に辿り着いた。
山に囲まれた渓谷の中に、ひんやりとした水面がキラキラと輝いている。昔とちっと
も変わらない、澄んだ水だった。
利の浅瀬にそろそろと足を浸す。
冷たい。でも気持ちがいい。ゆっくりと腰まで浸かって、川の流れを肌で感じる。
師匠はというと、準備運動もそこそこにいきなり飛び込んで早くもスイスイと泳い
でいる。
女性陣の二人は水辺で沢ガニを見つけたらしく、しばらくウロウロと足の先を濡ら
すだけだったが、俺が肩まで浸かるころ、ようやく羽織っていた服を脱ぎ水着姿に
なって川の中に入って来た。
下流の方から派手なクロールで戻って来た師匠が、膝まで浸かった女性二人の前で
止まり、水中から首だけを出して「うーん」と唸ったあとでCoCoさんの方に向かっ
て右手で退ける仕草をした。
「もう少し、離れたほうがいい」
その言葉を聞いてきょとんとした後、CoCoさんはおもむろに隣の京介さんの方を
見上げて、ついで足元まで見下ろし、芝居がかった様子でうんうんと頷いてから、
どういう意味だコラというようなことを言って師匠に向かって水を蹴り上げた。
そのあとしばらく4人入り乱れての水の掛け合いが続いた。
やがて俺は疲れて川からあがり、熱い岩の上にたっぷり水をかけて冷ましてから
座り込む。
他の3人は気持ちよさそうに、深さのある下流のあたりを泳ぎ回っている。
俺も泳げたらなあ、と思う。
完全なカナヅチというわけではないが、足がつかないところへは怖くてとても行
けない。溺れる、という恐怖感というよりは、足がつかない場所そのものに対す
る潜在的な恐怖心なのだろう。
そう思うと、いてもたってもいられず、水から出たくなる。
まして今、川の真ん中に誰のものともつかない土気色をした「手」が突き出てい
るのが見えている状況では、とても無理だ。
「手」に気がついた時にはかなりドキッとしたが、その脈絡のなさに自分でもどう
反応していいのかわからない感じで、とりあえず深呼吸をした。
師匠たちの泳いでいる場所からさらに下流。岩肌の斜面から覆いかぶさるような藪
が突き出ていて、その影が落ちているあたり。
どう見ても人間の手に見えるそれが、二の腕から上を水面に出して、なにかを掴も
うとするように手のひらを広げている。
師匠たちは気づいていない。
俺は眼鏡をそろそろとずらしてみる。
ぼやけていく視界の中で、その「手」だけが輪郭を保っていた。
ああ、やっぱりと、思う。
そこに質量を持って存在する物体であるなら、裸眼で見ると他の景色と同じように
ぼやけるはずなのだ。
この世のものではないモノを見分ける方法として師匠に習ったのだったが、俺は夢
から覚めるための技術として似たようなことをしていたので、わりと抵抗なく受
け入れられた。
悪夢を見てしまうとほっぺたをつねって目を覚ます、なんていうやり方が効かなく
なってきた中学生のころ、俺は「夢なんてしょせん、俺の脳味噌が作り出した世界
だ」という醒めた思考のもとに、その脳味噌が処理しきれないことをしてやれば夢
はそこで終わると考えた。
もしくは新聞でもいい。
とにかく、俺が知るはずのないものを見ること。そして、そこに書いてある情報
量がページを構成するのに足りないことを確認し、「ざまあみろ脳味噌」と嗤う。
本質からして都合よくできている夢なのだから、「本を読もう」とすると、それな
りに本っぽいつくりになっているかも知れない。しかし、中身は無理なのだ。世
界を否定したくて文章を読んでいる俺と、世界を成り立たせるために一瞬で構築
される文章、その二つを同時に行うには脳の処理速度が絶対に追いつかない。
そして、化けの皮が剥がれたように夢が壊れていく。
そうして目を覚ますのは俺の快感でもあった。
それと同じことが、この眼鏡をずらす手法にも言える。
仮に途方もなくリアルな生首の幻覚を見たとして、ああ、これは現実だろうかと
考えたとき、眼鏡をずらしてみる。すると、現実には存在しない生首だけは、ぼ
やけていく世界から取り残されたように、くっきりと浮かび上がってくる。もし
脳のなんらかの作用で、「眼鏡をずらしたら生首もぼやける」という潜在的な認
識のもとに生首もぼやけて見えたとしても、それは「その距離であればこのくら
いぼやける」という正確な姿を示さない。必ず他の景色とは「ぼやけ具合」が食
い違って見える。それが一瞬で様々な処理をしなくてはならない脳味噌の限界な
のだと思う。
だが、幻覚はまた、夢とも違う。
ああ、コイツは幻だと気づいたところで、消えてくれるものと消えないものとが
あるのだ。
「うおっ」
という声があがり、CoCoさんとぶつかりそうになった師匠が立ち泳ぎに切り替える。
そんなことを言いながらCoCoさんのほうへ水鉄砲を飛ばす。
そのすぐ背後には、水面から突き出た手。
思わず師匠に警告しようとした。
しかし、なにか危険なものであるなら、俺が気づいて師匠が気づかないなんてこと
があるのだろうか。
ならばこれはただの幻なのだ。
俺の個人的な幻覚を、他人が怯える必要はない。
けれど、なぜ今そんなものが見えるのか……
薄ら寒いものが背中を這い上がってくる。
師匠はなにも気づかない様子で再び平泳ぎに戻り、「手」から離れて上流の方へや
ってくる。
俺は「手」から目を離せない。
肘も曲げず、まるで一本の葦のように流れに逆らってひとつ所に留まっている。そ
こからなんらかの意思を感じようとして、じっと見つめる。
ふいにCoCoさんが川縁で声をあげた。
「これって、なんだろう」
そちらを見ると、水面からわずかに出っ張っている石にへばりつくように、白いも
のがある。
近寄って来た京介さんが無造作に指でつまむ。
それは水に濡れた紙のように見えた。
あっ、と思う間もなくその白いものが千切れて水に落ち、流されていった。
指に残ったものをしげしげと見ていた京介さんが、「紙だ」と言う。
そう続けて、残された部分にあるわずかな切れ込みを空にかざした。
たしかにそこには二つぽっかりと穴が開き、それまるで生き物の目を象っているよ
うに見えた。
「よくそんなの触れるな」
師匠がざぶざぶと川から上がりながら言う。
京介さんの視線が冷たく移り、何も返さずにその白い紙を水に投げた。
紙は沈みそうになりながらも流れに乗った。
全員の視線が自然とそこに向かう。
下流で、藪の影が落ちているあたりを通り過ぎるとき、あの「手」がもう見えない
ことに気がついた。
まるで溶けるように消えてしまっていた。
持参していたタオルで体を拭いて、俺たちは河原を出た。
冷たい川の水に浸かったことで、さっきまでのまとわりつくような熱い空気が嘘の
ように霧消して、涼しいくらいだった。
けれどそれも一瞬のことで、歩き始めるとすぐにまたじっとりと汗が浮き出てくる。
車に戻る前に寄り道をして、近くの商店でアイスを買った。店のおばちゃんは見知ら
ぬ若者たちを不審そうに見ながらも、棒アイスを4本出してくれた。そういえば今
日は平日なのだった。まして若者の極端に少ない過疎の村だ。小さい頃、何度かこ
こでアイスを買っただけの俺の顔を覚えていないのも無理はなく、よそ者が来た
という程度の認識しかなかっただろう。
開いてるのかどうかもよくわからない店が3、4軒並んでいるだけの、道端のささ
やかな一角だった。
のおばちゃんに「この先の河原って、最近水難事故かなにか起きましたか」と聞
いてみた。
おばちゃんは眉をひそめ、「最近はないねえ」とだけ言って次の言葉も待たず店の
奥に引っ込んでいった。
ああ、俺もすっかりよそ者なのだなぁと、少し寂しくなった。
その後、アイスをかじりつつ元来た道を歩きながら師匠が言う。
「あの紙は幣だね」
たぶんそうだと答えた。
神様や悪霊を象った紙人形とでも言えばしっくりくるだろうか。この村では、さま
ざまな儀式にその幣を使う。
「なんの幣だった?」
遠目に見ただけだし、目がふたつ開いてるというだけではさっぱりわからない。な
により俺自身が詳しくない。
「川ミサキか、水神かな」
師匠はさらっとそう言う。どこで調べたのか知らないが、俺より知っていそうな口
ぶりだ。
日が翳り始めた道をだらだらと歩いていると、さっきの四つ辻に差し掛かった。
すると、まるでさっきの再現のように京介さんが短い声をあげて道に屈みこむ。
さすがに驚いて大丈夫ですかと様子を伺うと、手で押さえている右のふくらはぎから
薄っすらと血が流れているのが目に入った。
CoCoさんがしゃがみこんで「なにかで切った?」と聞いている。
京介さんは首を横に振る。
俺は周囲を見渡したが、見通しもよく、なにもない道の上なのだ。
カマイタチ。
そんな単語が頭に浮かんだが、師匠が道の真ん中に両手をついて這いつくばってい
るのを見て、一瞬で消える。
目を輝かせて、まるでコンタクトレンズでも探すように土の上に視線を這わせている。
なにをしてるんですか。
その言葉を飲み込んだ。
周囲の空気が変わった気がしたからだ。
足元から、ゆらゆらと悪意が立ちのぼってくるような錯覚を覚えて、身を硬くする。
「おい、よせ」
京介さんは羽織っている上着のポケットから小さな絆創膏を取り出してふくらはぎ
に貼り、立ち上がりながらそう言った。
師匠はそれが聞こえなかったように地面を食い入る様に見つめ、独り言のように呟く。
「なにか、埋まっているな、ここに」
心臓に悪い言葉が俺の耳を撫でるように通り過ぎる。
京介さんが師匠に近づこうとしたとき、チリリンと耳障りな音がして自転車が通
りがかった。
泥のついた作業着を着込んだ中年の男性が、不審そうな目つきでこちらを見ている。
同じ方角からは似たような格好をした数人が自転車で近づいてきている。
四つ辻の真ん中で這いつくばっていた師匠は、なにを思ったかピョンと勢いよく
立ち上がると「腹減った。帰ろう」と言った。
俺は気まずい思いで道をあけて自転車たちをやり過ごす。
通り過ぎた後も、ちらちらと視線を感じた。
そんな声が聞こえた気がした。
それも含めて、俺は早くここを立ち去りたかった。率先してもと来た道へ進んで
行き、民家のそばに停めてあった車に乗り込む。
ようやく嫌な感じが収まった。
師匠は上機嫌でエンジンをかけ、ふたたび蛇行する山道を登り始める。CoCoさん
はなにを思ったか京介さんの絆創膏をつっつき、「痛いって」と怒られた。
(ほんとうに傷口があるのか確かめた)
助手席に身を沈めながら、後部座席のやりとりにふとそんなことを思う。ミラー
にうつるCoCoさんの表情からはやはりなにも読み取れなかった。
伯父の家に帰ると、従兄妹のハツコさんが来ていた。伯父夫婦の長女だ。
年が離れていたのであまり印象は残っていないが、今は同じ集落の家に嫁いでい
るらしい。
「今日は応援」と言って小太りの体を機敏に動かしながら、伯母の炊事を手伝っ
ている。
俺たちはというと、夕飯までの時間をそれぞれの部屋で過ごした。
ろくに泳いでいないのに俺はやたら疲れていて、ウトウトしっぱなしだった。
ほどなく茶の間に呼ばれ大所帯での食事が始まった。
近くの山で採れた山菜をふんだんに使った田舎料理は、実家の母が作るものより
「お袋の味」がして、なんだか感傷的になる。
俺たち4人と伯父夫婦。ハツコさんとその小さな子ども。そして実にタイミング
よく現れたユキオ。9人で囲む食卓だった。
なにが凄いって、その人数で囲めるちゃぶ台があることだ。
と伯父は苦笑した。
この家にはあと一人、ジッサンと呼ばれるお爺さんがいるのだが、寝たきりに近
いらしく食卓には出てこない。
ジッサンと言っても俺の祖父にあたる人ではなく、祖母の兄らしい。らしいとい
うのは、会ったことがないからだ。身寄りがなくなっていたところをこの家で引
き取ったそうだ。俺の足が遠のいてからのことだった。
「にゃあにゃあ」
ユキオがひそひそと口を寄せて来る。
「どっちが彼女なが」
これには彼なりの期待も含まれているのだろう。京介さんCoCoさんも一般的には
美人の部類に入るだろうから。
「どっちも違う」
そう言うと喜ぶかと思いきや、残念そうな様子で、
「両方あの兄さんのか」
と溜息をつくのだ。
「片方だけ」と言ってやると、「ふーん」と鼻で返事をしながら肉系ばかりを箸
でかき集めていった。
その時、家の外に犬の遠吠えが響いた。
「あ、リュウの晩御飯忘れちょった」
そう言って伯母が腰をあげようとするとハツコさんが笑って先に立ち上がった。
俺はふと思い出して、伯父に祖母の葬式の時にリュウがいたかどうか聞いた。
伯父が首を傾げていると伯母が手首から先を器用に折り曲げながら言う。
「ほら、ジッサンが捨てたあとじゃき」
伯父はオオ、と合点していきさつを話してくれた。
どうやらリュウは祖母の葬式の2ヶ月ほど前に「死んだ」のだそうだ。目をとじて
動かないリュウを見て、まだ足腰がしゃんとしていたジッサンが死んだ死んだと
大騒ぎし、裏山の大杉の根本に埋めに行ったのだが、なんとこれが早合点。自力で
土から這い出てきたらしく、半年くらいたって山中で野良犬をやっていたところを
近くの集落の人が見つけて連れて来てくれたのだそうだ。
この話、俺の連れには大いにウケた。が、俺は(なんだ、やっぱり別の犬なんじゃ
ないか)と思ったが、長年暮らした家族がリュウだというんだから、と考えると
なんだかあやふやになる。
あとでもう一度じっくり顔を見てみようと心に決めた。
それから目の前の料理が減るのに反比例して食卓の会話が増えていき、俺は頃合を
見計らって、口を開いた。
「なんか、いざなぎ流のことを知りたがってるみたいなんだけど」
目で師匠と京介さんを指す。
するとすぐさまユキオが身を乗り出した。
「だったらオレオレ。オレ今、先生について習いゆうがよ」
意外に思って、適当なコト言ってないかコイツ、と疑った。
すると伯母が「あんたは神楽ばあじゃろがね」と笑う。
どうやら先生についているのは本当らしい。
ただ、神楽舞を習っているだけのようだ。いざなぎ流の深奥は神楽ではなく、祈
祷術にあるというのは俺でもわかる。
ユキオの先生に会わせてもらったらどうか、そう言うのだ。
伯父のその言葉は、いざなぎ流の秘匿性を端的に表している。
そもそも俺の田舎に伝わるいざなぎ流とは、陰陽道や修験道、密教や神道が混淆
した民間信仰であり、それらが混じっているとはいえ、古く、純粋な形で残って
いる全国的に見ても貴重な伝承だそうだ。
祭りや祓い、鎮めなどを行うそのわざはしかし、ほとんど公にはされない。
なぜならそれらは「太夫」から「太夫」へ、原則口伝によって相伝されていくか
らである。
もちろん、その膨大な祈祷術体系を丸暗記はできない。
しかしそのための「覚え書」はまた、師匠から弟子へと門外不出の「祭文」とし
て伝えられるのみなのである。
なにかのお祭りには必ずと言っていいほど太夫さんが絡むが、俺の記憶の中では
その祈祷はただ「そういうもの」としてそこにあるだけで、「何故」には答えて
くれない。
「何をするために、何故その祈祷が選ばれるのか」
何をするためにというのは分かる。川で行われるなら水の神様を祭り鎮めるため
で、家で行われるなら家の安泰のためだ。だが「何故」その祈祷なのか、という
部分には天幕がかかったように見えてこない。祈祷はさまざまな系統に分かれ、
使う幣だけで数百種類もあるのである。
「よっしゃ、明日さっそく行こう」
ユキオは箸をくるくると回して俺たちの顔を見る。
師匠は願ってもない、と頷いた。京介さんは「頼みます」と軽く頭を下げる。
と請合った。
いろいろと大丈夫な職場らしい。
ユキオとハツコさんたちが帰っていったあと、俺たちは順番に風呂に入ることに
した。夜になってようやく涼しくなってきたが、汗を重ねた肌が気持ち悪い。
女性陣はあとがいいと言うので、まず俺、ついで師匠という順番で入ることにし
た。
早々に俺が風呂からあがり、3人でトランプをしているとTシャツ姿で頭から湯
気を昇らせながら師匠が出てくる。
「あー、気持ちよかったー。風呂に入ったのって半年ぶりくらいだ」
その言葉に女性二人の目が冷たくなる。
「ちょっと」「寄らないでくださる」
ステレオで言われ、師匠は憤慨する。
「って、おい。僕はシャワー派なんだって」
弁解する師匠に冷たい視線を向けたまま二人は女部屋に戻っていく。
「知ってるだろ!」
わめく師匠に、振り向いた京介さんがいつもより強い調子で「死ね」と言った。
俺は笑いをこらえるのに必死だった。
これだよ。
二人を無理やりセットにした甲斐があったというものだ。
それから疲れていた俺たちは早々に床についた。
若者のいないこの田舎の家は寝付くのが早く、あまり遅くまで起きて騒がしくして
も悪いという思いもある。
なかった。
部屋の明かりを消し、扇風機に首を振らせたまま横になるとあっというまに眠りに
落ちた。
どのくらい経っただろうか。
バイクの音を遠くで聞いた気がして、なぜかユキオがまた来た、と思った。
そんなはずはない、と思いながら徐々に頭が覚醒し、むくりと起きる。腕時計を
見ると深夜2時過ぎ。トイレに行こうと起き上がると、隣の布団がカラになって
いることに気づく。「師匠」と小声で呼びかけるが、部屋のどこにもいない。
とりあえずトイレで用を足しに行くと、部屋に帰るときに縁側に誰かの影が映っ
ている。
そっと障子を開けると、京介さんが縁側に腰掛けて夜陰に佇んでいる。
右手には煙草。
こちらに気づいて視線を向けてくる。
「深い森だ」
そうか。京介さんは自分の部屋でないと眠れないということを今更ながら思い出す。
「浄暗という言葉があるだろう。清浄な闇という意味だ」
ここは空気がいい。
そう言って目の前に広がる木々の黒い陰を眺めている。
遠くで湧き水の流れる音が聞こえる。
「師匠を見ませんでしたか」
そう問うと、煙を吐きながら答えてくれた。
「バイクで出て行ったな」
どこに、と聞こうとしてすぐに聞くまでもないと思いなおした。
明日もいろいろありそうだ。
そう思って、今日のところはきちんと寝ておくことにする。
「おやすみなさい」という言葉に、京介さんは小さく手を振った。
朝が来た。
目を覚ますと、隣で師匠がひどい寝相をしている。
少しほっとする。
伯父夫婦と合わせて6人で朝食をとる。なにか足らない気がした。
そうだ。新聞がない。
「ああ、昼にならんと来ん」
そういえばそうだった。俺のPHSも師匠の携帯も通じない、情報を制限された田
舎なのだ。
食べ終わって、部屋に帰ると師匠に夜のことを聞いてみた。
「行ったんですよね、あの京介さんが怪我をした場所へ」
「うん」と師匠は答え、扇風機のスイッチを入れながら胡坐をかいた。
「なにかあったんですか」
「いや、なにもなかった」
煮え切らない答えに少しイラッとする。あんなやり取りをしておいて、なにもない
はずはない。
すると師匠は意味深に目を細めると、ゆっくりと語った。
「昼にはあり、夜にはなかった」
掘り出されていた、というのだ。
言葉の端に、気味の悪い笑みが浮かんでいる。
「なにが、埋まっていたんですか」
師匠は畳の上にごろんと寝転がった。
「犬神を知ってるかい」
「聞いたことは」
京介さんがこの旅の前に口にしていたのを覚えている。
「古くは呪禁道の蠱術に由来すると言われる邪悪な術だよ。犬神を使役する人間が
他人の物を欲しがれば、犬神はたちまちにその人に災いをなし、その物を与える
まで止むことはない。犬神は親から子へと受け継がれ、その家は犬神筋とか犬神
統などと呼ばれる。犬神筋は共同体の中で忌み嫌われ、婚姻に代表される多くの
交流は忌避される。そのために犬神筋は一族間での通婚を重ね、ますますその"血"
を濃くしていく」
師匠は秘密めかして仰向けのまま指を立てる。
「犬神というのはその名前とは裏腹に、小さな鼠のような姿で描かれることが多い。
もしくは豆粒大の大きさの犬だとする記録もある。犬神筋はそれらを敵対する者
にけしかけ、腹痛や高熱など急激な変調をもたらす。犬神にとりつかれた者は山
伏や坊主などに原因を探ってもらい、どこの誰それの犬神が障っているのだと明
らかにする。その後は、原因と判じられた犬神筋の家へ赴いて……」
「貢物を差し出すわけですか」
口を挟んだ俺に、師匠は首を振る。
「文句を言いに行くんだよ。人の道に外れたことをしやがって、と」
わりが深く濃密な、狭い共同体の中でなにか理不尽な災いが起こった場合、それを
誰か特定の人間のせいにしてしまうのは、日本の古い社会構造の歯車の一つなのだ
ろう。それが差別階級を生む要因にもなっている。
ところが師匠は、この犬神筋についてはいわゆる被差別部落民とは少し意味合いが
違うと言う。
「犬神筋は、裕福な家と相場が決まっている。それも、農村に商品経済、貨幣経
済が浸透しはじめたころに生まれた新興地主がほとんだ。土地を持つこと、そ
して畑を耕すことがすべてだった農村の中に、土地を貸し、貨幣を貸し、商品
作物を流通させることで魔法のように豊かになっていく家が出現する。そして
このパラダイムシフトを理解できない人々は思う。"あの家が金持ちになったの
は、犬神を使っているからだ"と。我々の土地を、財を、貪欲に欲しがり、犬神
を使役してそれらを搾取しているのだと。金がないのも、土地がないのも、腹を
下したのも、怪我をしたのも全部犬神筋のせいだ、というんだ。そう信じること
で、共同体としてなんらかのバランスを保とうとしているのかも知れない」
気がふれるということを、昔の人は狐がついたとか、犬がついたとか言うだろう?
師匠はそう続けながら指を頭のあたりで回す。
「これは犬神に限らず、狐憑きも蛇神筋も猿神筋も同じだ。気がふれたフリをする
のはとても簡単で、しかも何が憑いているのかを容易に表現できるからだ。狐な
ら狐の真似を、犬なら犬の真似をすればいい。そうすれば、憑き物筋という家が
存在し、それが他に害を成しているということを、搾取されている人々の間で
再確認することができる」
犬神は、なにかおどろおどろしい存在なのではなく、いや、それ自体が人の心の
闇を秘めているにせよ、農村における具体的な不満解消のシステムの一つに過ぎ
ないのだと。そう聞こえたのだった。
しかし師匠はふいに押し黙る。
俺はその沈黙の中で、前日にあの四つ辻で京介さんが倒れたシーンと、そのあと
に襲われた悪寒が脳裏をかすめ、ジワジワと気分が悪くなっていった。
「犬神の作り方として伝えられる記録に、こんなものがある。まず、犬を土中に
埋め、首だけを出して飢えさせる。そして飢えが極限にきたところで餌を鼻先
に置き、犬がそれにかぶりつこうと首を伸ばした瞬間にその首を鉈で刎ねる。
"念"の篭ったその首を箱に納めて術を掛け、犬神とする。その時、残された胴体
は道に埋めたままとし、その上を踏みつけられることで犬の「念」は継続し、ま
た強固なものになっていく。その道が人の行き来の多い、四つ辻であればなお理
想的とされる」
「うっ」
思わず吐き気がして口を押さえた。
嫌な予感が頭の中でパチパチと音を立てているような気がした。
「おー、リュウ。お出迎えとは珍しいにゃあ」
そう言いながら、軒先に座っているリュウの頭を撫でた。俺も朝方、飯を食べに
ノソノソと犬小屋から這い出てきたリュウの顔をじっくりと観察したが、記憶のヴェ
ールは「自信ないけど、リュウらしい」という程度にしか、真実に近寄らせてくれ
なかった。
「じゃあさっそく行こう」
ユキオが原付で先導し、俺たちは師匠の運転で伯父に借りた車に乗ってついていった。
最初京介さんが運転席に乗ろうとすると、師匠が「初心者マークは大人しく後ろに乗
ってろ」というようなことを言って、「そっちも大した腕じゃないくせに」と言い返
され、険悪なムードになりかけたことを言い添えておく。
ユキオの「先生」は、本当に学校の先生だったらしい。ユキオは小学校の頃に教わった
ことがあるそうだ。定年になり、子供たちが独り立ちすると山奥に土地を買って住ま
いを構えて奥さんと二人で暮らしているとのことだった。
「こんな田舎で公務員なんてやってると、デントーってのを守る義務から逃げれんが
よ」
出掛けにユキオはそう言ったが、神楽を習っていること自体はまんざら嫌でもない様
子だった。
「先生はちょっと気難しいき、変なこと言うても気ぃ悪うせんとって下さい」
俺は幼い頃に見た白装束の太夫さんの神秘的な横顔を姿を思い浮かべた。
車は一度国道に出てから川沿いを走り、再び山側へ折れるとそこからは延々と山道を
上って行った。
道は悪く、割れた岩のかけらのようなものがアスファルトの上のそこかしこに転がっ
ている。
昨日より幾分日差しは穏やかで、車の窓を開けると風が入ってちょうどいい涼しさだ。
山の斜面に蛇の黒い胴体を見た気がして身を乗り出した時、後部座席のCoCoさんが
ふいに口を開いた。
「バイクから、離れない方がいい」
さっきまで隣の京介さんを意味なくくすぐって騒いでいたのに、一変して真剣な響
きの声だったので思わず前方に視線をうつす。
ユキオを見失いそうになっているのかと思ったが、適度な距離を保ったまま車はつ
いていけている。
どういう意味だったのだろうとCoCoさんの方を振り返ろうとした時、不思議なこと
が起こった。
ユキオの原付が加速した様子もないのにスルスルと先へ先へと遠ざかって行くのだ。
坂道でこっちの車の速度が落ちたのかと一瞬思ったが、そうではない。速度メー
ターは同じ位置を指したままだ。
何が起こっているのか理解できないうちに車は原付から離され、ユキオの白いヘル
メットはこちらを振り向きもしないで曲がりくねる山道の奥へと消えて行こうとし
ていた。
「アクセル」
京介さんが鋭く言ったが、師匠は「踏んでる」とだけ答えて真剣に正面を見据えて
いる。
こちらが遅くなったわけでも、原付が早くなったわけでもない。俺の目には道が伸
びていっているように見えた。
周囲を見回すが、同じような山中の景色が繰り返されるだけで、一体どこが「歪ん
で」いるのかわからない。
は、このまま進むしかない。
師匠は一度ギアを落としたが、回転音が派手になるだけで効果がない。
「まずいなあ」
ギアを戻しながら呟く。
「これって、なんの祟り?」
師匠の軽い調子に、京介さんは「知らない」と突き放す。
俺は今起きていることを信じられずに、ひたすら目をキョロキョロさせていた。ま
だ午前中の早い時間帯だ。すべてが冗談のように思える。
「実にまずい」
前方に目を向けると、道がますます狭くなっているような気がした。カーブもきつ
くなっていて、フロントガラスの向こう側の景色はいちめんに屹立する木、木、木。
緑色と山の黒い地肌が壁となって迫ってくるかのようだ。
ギリギリ二車線の幅が、今は完全に一車線になっている。ガードレールも消えさって
しまった。
右側は渓谷だ。転落したらまず、命はない。
反応を見る限り、俺が見ているものを他の3人も見ているのは間違いない。
集団幻覚?
そんな言葉が頭をよぎる。しかし、車のアクセルの効果までそんなものに束縛されて
しまうのだろうか。
「なあ」と師匠がCoCoさんに呼びかけた。
「これって、夢じゃない?」
CoCoさんは首を横に振る。師匠は少し経ってから頷く。
奇妙なやりとりだ。
人間がつりさがっているとか……
囁くような師匠の口調に、思わず身を竦める。
本当に周囲の山林のなかにそんな不気味な光景が現れるような気がして、チリチリ
とうなじの毛が逆立つ。
前へ伸びる道と後ろへ伸びる道。その両端が、曲がりくねる山のどこかで繋がってい
るようなイメージが頭を掠め、ゾクリとした。
師匠は迫ってくる鋭いカーブに際どくハンドルを切り続けている。まるで止まること
を畏れているようだった。
異変、異変。
そんなフレーズが頭の中で繰り返されていると、視線の中に見覚えのあるものがチ
ラッと映った気がした。
山の斜面に目を凝らすが、あっと言う間に通り過ぎる。
少しして、前方にもう一度同じものが現れた。それを見た瞬間俺は叫んだ。
「蛇が!」
師匠が素晴らしい反応でブレーキを掛ける。
車はカーブする斜面に半ば擦りそうになりがら止まった。
京介さんが後部座席のドアを開けて飛び降りる。そしてすぐさま木の根っこをよじ
登り、山肌に横たわった黒い蛇の姿をとらえた。
俺たちも車から降りて近づく。
見ると、その黒い頭には長い釘が深々と突き通っている。頭から顎まで貫かれて地
面に縫い付けられ、蛇は死んでいた。丈の短い草の中にのたうつその体が、地下水
のように湧き出たどす黒い血のように見える。
その瞬間、上空から。
上空から、としか言いようがない場所から耳をつんざく様な悲鳴が聞こえた。男と
も女とも、そして人とも獣ともつかない声だった。
しかし次の瞬間、説明しがたい感覚なのであるが、一瞬にしてそれが幻聴だとわかっ
たのだった。そしてなにか目の前の光景が今にもペロリと裏返りそうな、そんな不
気味な予感に襲われる。
ざわざわと木の枝が鳴って、俺は足を棒のように固まらせていた。
「車に戻れ」という師匠の声に我に返ると、逃げ込むように助手席に飛び乗った。
シートベルトをする暇もなく、車は急発進する。
そして次のカーブを曲がるや否や、ユキオの原付が目の前に現れた。
遠ざかって行く前となにも変わらない様子で山道を走り、白いヘルメットがゴトゴ
トと揺れている。
道もいつの間にか元の幅に戻り、ガードレールも所々へこみながらもちゃんと両側
にある。
俺は言葉を失って、首をゆるゆると振る。
まるでさっきまで緑色の迷宮に閉じ込められていた間、時間がまったく経過していな
かったかのように、すべてはすっきりと繋がっていた。
今まで心霊体験の類を数知れず味わってきた俺にも、まるで白昼夢のような出来事
に呆然とせざるをえなかった。
「やってくれたな」
師匠が深く息を吐いて、背もたれに体を預けた。
「今のが人間の仕業とは」
言葉の端から、ゆらゆらと青白い炎が立つような声だった。
「持っていろ」
そう師匠が言ったとたん、京介さんは窓からそれを投げ捨てた。
「おい」
怒るというより、溜息をつくような調子で師匠が咎める。
京介さんは、「よけいな物がよけいな物を招くんだよ」と言って横を向いた。
師匠は恨めしそうにバックミラー越しに睨んでいる。
前を行くユキオがハンドルから片手を離し、山側を指さした。
もうすぐ目的地だ。ということらしい。
まもなく俺たちは山の中にぽつんと立つ一軒家に辿り着いた。
伯父の家によく似た造りの日本家屋だ。広い庭に鶏を飼っている。
ユキオがヘルメットを脱ぎながら「せんせー」と家に向かって声をかけ、俺は後ろ
から近づいてその耳元に囁いた。
「なあ、さっき俺たちの車を見失わなかったか」
「いや」
ユキオは怪訝そうに首を振る。
そうだろうとは思った。おそらくあれは、俺たちの霊感に反応したのだろう。ユキオ
には何事もない山道にすぎなかったはずだ。
だが、俺たちが狙われたのは明らかだった。なにか、「警告」じみた悪意を感じた
からだ。それは、京介さんが足から血を流したあの四つ辻で感じたものと同質のもの
だった。
俺は師匠の顔を見たが、首を横に振るだけだった。
なりゆきにまかせよう、というように。
ユキオが玄関の中に体を入れながら奥に向かって言葉をかける。
奥からいらえがあって俺たちは家の中へ招き入れられた。
畳敷きの客間に通され、その整然とした室内の雰囲気から正座して待った。
廊下がきしむ音が聞こえ、白髪の男性が襖の向こうから姿を現した。ユキオの小学
校の先生だったというので、もう少し若いイメージだったが、70に届こうという
歳に見えた。
先生は客間の入り口に立ったままで室内を睥睨し、胡坐をかいているユキオを怒鳴っ
た。
「おんしゃあ、どこのもんを連れてきたがじゃ」
「え」
と言ってユキオは目を剥いた。
俺は驚いて仲間たちの顔を見る。
先生は険しい表情をしたまま踵を返すと、足音も乱暴にその場から去ってしまった。
それを慌ててユキオが追いかける。
残された俺たちは呆然とするしかなかった。
しかし師匠は妙に嬉しそうな顔をしてこう言う。
「あの爺さん、どこのモノを連れてきたのか、と言ったね。そのモノはシャと書く
"者"じゃなくて、モノノケの"物"だぜ」
あるいは、オニと書く鬼(モノ)か……
師匠はくすぐったそうに身をわずかによじる。
京介さんがその様子を冷たい目で見ている。
やがてもう一度襖が開いて、先生の奥さんと思しきお婆さんが静々と俺たちの前に
お茶を並べてくれた。
口を開きかけた時、ユキオを伴って再び先生が眉間に皺を寄せたままで現れた。入れ
違いにお婆さんが襖の向こうに消える。
座布団をスッと引き寄せながら先生は俺たちの前に座った。ユキオも頭を掻きながら
その横に控える。
「で、」
先生は深い皺の奥から厳しく光る眼光をこちらに向けて口を開いた。
「先に言うちょくが、わしは本来おまんのようなもんを祓う役目がある」
その目は師匠を見据えている。
「その上で聞きたいことというがはなんぞ」
師匠は怯んだ様子もなくあっさりと口を開いた。
「いざなぎ流の勉強を少し、させてもらいました。密教、陰陽道、修験道、そして
呪禁道。それらが渾然一体となっているような印象を受けましたが、陰陽道の影響
がかなり強く出ているようです。明治3年の天社神道禁止令とその後の弾圧から土
御門宗家はもちろん、有象無象の民間陰陽師も息の根を止められていったはずです
が、この地ではどうしてこんな現実的な形で残っているのでしょう」
先生は表情を崩さずに、
「知らん」
とだけ答えた。
「まあいいでしょう。法律の不知ってやつですか。そういえば『むささび・もま事
件』ってのも舞台はこのあたりじゃなかったかな。……話がそれました。ともか
くいざなぎ流はこの平成の時代に、未だに因縁調伏だとか病人祈祷だとかを真剣
に行っているばかりか、"式"を打つこともあるそうですね」
「式王子のことか。……生半可に、言葉ばかり」
「わしらには関係ない」
先生は淡々と返す。
「まあ聞いてください。ご存知でしょうが、犬神筋というのは四国に広く分布する
伝承です」
師匠は正座したまま語った。
曰く、犬神を祓うことのできるわざの伝わる場所には、それゆえに犬神が社会の深
層に潜む余地があるのだと。ましてそんな技法が日々の生活の中に織り込まれている
この地では、犬神もまた日常のすぐ隣に存在している。
「ここに来る途中、頭を釘で貫かれた蛇を見ました。明らかに呪いをかけるための
道具立てです。もし仮に、誰かの使っている犬神の、その胴体を埋めてある秘密の
場所を見つけられてしまったとしたら、その誰かは一体どうするのでしょうか」
師匠が言葉を途切れさせたその瞬間、みんなの手元に置いてある湯飲みが一斉にカタ
カタと鳴りはじめた。
地震かと思い、とっさに電灯の紐を見る。
紐はわずかに揺れていて、外から光の射す障子の白い紙も微かに振動していた。
こぼれたお茶の雫を京介さんが指で掬い、じっと見つめている。俺はどうやらただ
の微弱な地震らしいと思ってなお、得体の知れない胸騒ぎがした。
揺れが収まってから先生はゆっくりと口を開く。
「いね」
え? と問い返す師匠に、「帰れ、という方言です」と耳打ちする。
「それは、この地を去るほかないということですか」
師匠は急に立ち上がり、障子に近づくと骨に手をかける。サーッと木が擦れる心地
よい音とともに、眩しい光が飛び込んできた。
その様子を見ながら、師匠がボソっと言った。
「全然騒ぎませんでしたね」
さっきの地震のことを言っているのだと気づくまで、少しかかった。
確かに鶏の騒ぐ音はしなかった。
「なんとかなりませんか」
師匠の言葉に、先生は首を横に振るだけだった。
ユキオはよくわからないままにオロオロしているように見えた。
「どうも僕はここではやたら嫌われてるみたいだなあ。フィールドワークのために
郷土史研究家だとか民俗学の研究者が訪ねてくることだってあるでしょうに。そん
な部外者もみんな追い返すんですか」
「人じゃのうて魔物がやってくりゃあ、つぶてで追い払うががつねじゃ」
魔物と来たよ。
師匠は声になるかならぬかという小声で足元にこぼし、また顔を上げた。
「魔物と言えば、いざなぎ流では目に見えない魔物を儀式に引っ張り出すために
"幣"という紙細工を作るそうですね。魔群というんですか。川ミサキだとか、水
神めんたつだとか、蛇おんたつだとか。神様を模したものも多いようですが。それ
ぞれに決まった形の幣があって、切り方・折り方は師匠から弟子へ御幣集という
形で伝えられると聞きました。ある資料で何点か挿絵を見たことがあります。ヤ
ツラオだとかクツラオだとか、おどろおどろしい怪物も幣になってしまえば随分
可愛らしくなってしまうと思いました。……ところで」
師匠は障子を閉め、一瞬室内が暗くなる。
「犬神の幣がないのはどうしてですか」
誰の気配ともしれない、ハッとした空気が漂う。俺は固唾を飲んで師匠を見ている。
い。あるいは見落としかも知れない。でもどこか引っかかるんです。犬神は深く
土地に食い込んだ魔物で、四国の各地に隠然と広がっている。いざなぎ流によっ
て祓われる対象として、どうしてもっと目立っていないんでしょうか」
先生は師匠の視線を逸らすように天を仰ぎ、深く溜息をついた。
そしてそれきり目を閉じて、なにも言葉を発しようとしなかった。
「わかりました。いにますよ」
いにますって、使い方合ってるよね。
師匠は俺にそう言うと、先生に向かって頭を下げ、止める間もなく部屋から出て行
ってしまった。
残された俺たちもいたたまれない雰囲気になって、腰を上げざるを得なかった。
出されたお茶に誰ひとり手もつけないままに退散する羽目になるとは思わなかった。
と、俺の隣で京介さんが目の前の湯飲みに手を伸ばし、一気に飲み干した。
帰れと言われた去り際にそんなことをするなんて、少し京介さんのイメージとはズ
レがあり、奇妙な行動に思えた。
すると立ち上がりざま、俺にだけ聞こえる声でこうささやくのだ。
「貸してるタリスマンは持ってきたか」
かぶりを振ると、独り言のように「気をつけろよ」と言って部屋から出て行った。
俺はなにか予感のようなものに襲われて、自分の前に置かれた湯飲みを掴んだ。
冷たかった。
思わず手を離す。
出された時は確かに湯気が出ていた。間違いない。
あれからほんのわずかしか時間は経っていないというのに。一瞬のうちに熱を奪わ
れたかのように、湯飲みの中のお茶は冷えきっていた。
まるで汲み上げたばかりの井戸水のように。
お迎え前
おばあちゃんは呆けてて漏れの顔も覚えてるかどうかっていう微妙な状況だったんだが
死ぬ前はなぜかボケが直っていたらしい。でもほとんどしゃべれない状況だったんだってさ
おばあちゃんが亡くなる2,3日前にいきなり母を指差して「ヘビがいる」って嬉しそうにいい始めたんだって。
最初は母は厳格か何かだと思ったらしいんだけど、よくみると母のちょっと前を指差していたんだって
不思議に思ってた母だけどしばらくして「おじいちゃんが守ってくれてるのかな?」って思ったんだって
おじいちゃんはもう10年も前になくなったんだけどうまれが蛇年だったからそう思ったらしい
何より嬉しそうにいってるしね 普段蛇大嫌いなんだけどさ
これが一度目の出来事
2度目は死ぬ1日前くらいのこと
おばあちゃんが突然何かおびえ始めたらしい
どうしたのかなと母が思ってたらベッドの下のほう指差して
「あそこに黒い人がいる」っていうのさ
当然母にはみえないんだけど、たしかにそこにいやな気配を感じたんだって。
今まではいなかったらしいから突然出たみたい
今思うとそれが死神ってやつだったのかもしれないね
ありきたりな話って思うけどこれが全部です。
支離滅裂な文章だったけどわかるかなぁ(;´Д`)
避難小屋
初日は土合駅から徒歩でマチガ沢出合の幕営地で一泊。
翌日は尾根伝いに谷川の双耳峰、一ノ倉岳も無事に越え、
宿泊予定地の茂倉岳の避難小屋に着いたのは確か昼前でした。
梅雨時には珍しく天気もよく、爽やかな風が時折吹いてきます。
私はこの山が七百人近い人の命を呑み込んだ山と言うことさえ
すっかり忘れていました。
小屋の中は大人四人が寝て荷物を置くと、ほぼ一杯の広さです。
小屋に入る時に二枚の扉の内扉が壊れて、開きにくくなっていました。
しかし、雪の季節でもないし、雨風をしのぐには十分でした。
翌日は下山予定でした。
夜半過ぎに天気が崩れ、私の頭の上にある小さな窓が風に吹かれて
バタバタと音を立てていました。昼の疲れが出たのか、
その音も気にならなくなり、私はすーっと眠りに引き込まれていきました。
私はいつも山に入ると大体一時間置きに目が覚め、このときもそうでした。
何度目かに目を覚ましたのは、起床予定の三時五分前でした。
この日は私が起床係でしたので、ちらちらと時計を眺めては時の経つのを
待っていました。相変わらず窓枠は雨風に叩かれ、大きな音を立てています。
しかし、重い扉はびくともせず、音一つしませんでした。
その時です。突然それまでシーンとしていた室内の静寂を破るように
外の扉が『ドンドンドンドンドン!ドンドンドンドンドン!』と
規則正しく二回叩かれたのです。
それは私が起床の声を掛けるのとほぼ同時でした。
真っ先によぎったのは、『遭難者が救助を求めているんだ』ということでした。
それにしては誰も反応しないのです。明らかに他の三人は起床の声を
待っていると言った様子でした。
風の音にしては......と考えながら時計を見ると、三時を一分ほどまわっています。
『やべっ』と思い、起床の声と共にガバッと起き上がると食当の準備に
取り掛かりました が、何かいつもと様子が違いました。
普段ならうるさいほど指示を出す四年生がじっと黙っています。
手をとめる訳にも行かず、黙々と作業をしていると、しばらくしてS先輩が
『○島、今の聞いたか?』と聞いてきたんです。
やっぱり他の人も全員が聞いたそうです。
明らかに人為的に叩いた音であると皆口々に言っています。
S先輩に『お前、外見て来い』と言われ、恐る恐る扉に手を掛けました。
本当にこのとき程怖かったことはありませんでした。
扉の向こうには誰一人おらず、ただ私の懐中電灯の明かりの中を雨と霧が
サーッと流れていくだけでした。結局なんだったか分からないまま、
何も見えなかったと言うと一気に緊張が解け、皆急に饒舌に話し出しました。
その時先輩の一人が言った言葉に私は背筋がぞーっとしたことを今でも覚えています
『ここの避難小屋って結構やばいんじゃないの?だってさあ、
この山なら冬に遭難した人の遺体とかってずっと安置されてるだろうし。』
そうです。夏こそ穏やかですか、冬の谷川岳といえば、
豪雪地帯として有名で数多くの登山者の命を奪ってきた場所なのです。
あれから十五年近く経ちましたが、現在は避難小屋も改装され、
今も多くの登山者を迎え入れています。
通報しる
数ヵ月前まで風俗でバイトしてて、そこに付いた客が恐かった。
50代ぐらいの白髪混じりの禿たオヤジなんだけど「オジさんね、変態さんなの」ってニヤニヤしながら言う。
そんな事言う人いっぱいいるし、誰にも迷惑かけてない性癖なら別に良いんだけど
そのオジさんは小学生のアソコ舐めた事あるって言う。プレイ中にそういう事口にして興奮するタイプなんだって思った。
プレイ後体を拭いてあげるとオジさんはニヤニヤ笑いながら言った。
「実は女子高生にいたずらしたことあるんだよ」
「イタズラ?何、痴漢しちゃったw?」
「ううん、レイプ」
「えっ!?」
思わず大声出した。世の中にレイプしたって事実を笑いながら話す人がいるんだとゾッとした。
でも冗談だろうって思って、すごい心臓ドキドキしてたけど冷静装って聞いてみた。
「え?一人に?」
「ううん、4、5人」
「だってそんな事してバレたら捕まっちゃうよ?」
「それがね、大丈夫なの。大体泣き寝入りなの」
「そうなんだ…」
「中高生はね、絶対いわないよ。だからオジさん学生さん大好き」
事実無根
道後温泉の奥手にあるO道後温泉。
もともと幽霊が出るホテルがあることで超有名なんだけれど、
K館の50×号室に彼女ともう一人、泊まることになった。
そのもう一人っていう女性が、霊感があるそうで、
到着時からやたらとビビりまくっていたらしい。
「怖いから私と一緒に寝て!!」ってことで二人一緒の部屋になったそう。
だったらホテルを変えたらいいじゃないって話なんだけど…
二人ともツアー会社のスタッフとして行ったので仕方がなかったんだと。
それに、ビビる様子の二人に、フロント係はこう一喝したそうだ。
「事実無根のことで騒ぐと、名誉毀損で訴えますよ!!」
さて、その晩
知り合いの方の女性のベッドに異変が起きた。
『がたがたがたがた…』
最初は地震かと思ったそうだ。激しい揺れに目が覚めた。
見ると、自分の横たわるベッドの周りを十人ほどの人が囲んでいる。
青いうつろな顔をした男、ボサボサ頭の女性、カッと目を見開いた女性。
続いてかれらは、彼女の肩や四肢をつかみ、力任せに引っ張った。
「いたいいたいいたい!!やめて〜〜!!」
あとわずかでベッドから引きずり降ろされるところだった。
気づくと、頭と足の位置が180度入れ替わっていたそうだ。
一緒にいた女性が先ほどの様子を気にかけて声をかけた。
彼女も起きていたのだが、あまりの異常さに恐ろしくて動けなかったらしい。
「ね、ねえ、一体何があったの?」
「私のベッドの周りを10人ほどの青い顔した人たちが取り囲んで…」
「やめて〜〜〜!!!」
「事実無根」と言い張る営業サイド。
閉館をせず営業し続けるのは根性と言える。
事実、出ると噂の3Fのフロアには一般の客室にかかわらず
「リネン室」のプレートがかけられている。
近くに斎場があり、霊の通り道になっているという噂や、
元々病院だった建物を取り壊さず改装して使っているとの話も聞く。
隙間
なんか投下していいのかわからんが、とりあえず投下
俺な、怖がりな癖に、ホラー映画とかゲーム好きなんだわw
で、そんな怖いもの見たさな俺が厨房の時の話なんだが
ふと自分の部屋のドアとフスマ、カーテンを少しだけ開けといた
ほら、こういうのって、よく隙間から霊が見てる。って話あるじゃないか?
時期が12月の中旬あたりで、寒いからコタツで寝たんだよ
ちょうど、自分の頭がカーテンの所に来るようにして寝たわけ
位置的には
〜 〜←カーテン
○←頭
□←コタツ
_ _← フスマ
↑
ドア
わかりにくてスマソ
ふと尿意を感じて、目が覚めたら、開いたカーテンの隙間に女性の顔が見えるのよ
でもその女性、俺を見ないでずっとまっすぐ見てるんだわ
もう俺それだけでもチビりそうで、すぐ目を閉じたよ
次の日からは隙間を開けることはしなくなったよ
怪しい少女
俺はある市営地下鉄の駅を使ってる。
大抵の地下鉄の駅と同じように、その駅もホームから
エスカレーターか階段を登って外に出るようになってる。
ちなみにエスカレーターは二列あって、俺はいつも左側を使うようにしてる。習慣かな。
この前、いつものように半分眠りながら左側のエスカレーターを登ってた。
ちょっと遅刻気味だったから駆け足だったんだけど、ふと右の方から視線を感じてそっちを見た。
そしたら右側のエスカレーターから、手すりに両腕をのせてニコニコしながらこっちを顔で追ってる小さい女の子がいたのね。
あぁ、私立に通ってる小学生かな…と思ってそのまま他の電車に乗り換えたんだけど、ある事に気が付いてゾッとした。
その女の子、ニコニコこっち見ながらその場に「静止」してたんだよ。
エスカレーターって常に動いてるから、同じ位置に静止するためには
エスカレーターと同じ速度で逆方向に運動しなきゃならない。
でもその女の子は手すりに両腕をのせてニコニコしてただけ。
後ろから来る人達も女の子を避けて登ってただけで誰も不自然に感じてないようだった。
あれは何だったんだろう?
2003年12月上旬、横浜市営地下鉄あざみ野駅での出来事です。

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- 縁起の悪い道沿い
- サイテー
- 赤い一輪車
- 目印の赤い布
- 呪殺
- 車椅子から伸びる足
- 葬式にて
- 四隅の塩
- 霊感少女と行列
- 三日後
- 着物姿の二人組
- 消えた車
- 与作の結末
- 禁断のビデオ
- ドライブ
- 嫌な夢
- テープの内容
- 夢の中でかくれんぼ
- 現実の彼
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